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2007年05月15日

不連続素人小説【紫煙の窓】第05話

 私も、そう毎日遅くまで仕事をしているわけではない。しかし深夜残業の度に、窓越しに決まって見える女性の姿。もしかするとあの人は毎日この調子なのか?と思ってしまうほどである。それも夜7時や8時くらいでは、まだあの窓は照明も点かず暗闇になっている。ということは・・・毎日遅くまで外回りをこなした後、深夜になってからあの部屋で事務作業を片づけているのか?
 劣等代理店として自らの勤務態度を省みると、何とも情けなくなってくる。

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 私の事務所のあるビル、各フロアにある喫煙コーナーは換気扇が無くとも換気は十分・・・と、喫煙者は思っている。何故ならこのレトロな建物の窓という窓は大人の膝上あたりの低いところから天井近くまでの大きさがあり、更に最上階の9階まで全階の窓が普通に“全開可能”だからだ。
 壁の高さのほとんどを占めるこの窓を開ければ換気効果は抜群である。ただ、非常に危険でもある。このフロア(7階)でも窓際に立つにはかなり度胸がいる。少しふらつけば真っ逆さま、といった恐怖感が常に付きまとう。幼い子供などは立ち入らせない方が無難だろう。

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posted by イプシロン at 09:55 | 不連続素人小説 | 更新情報をチェックする

2007年04月13日

不連続素人小説【紫煙の窓】第04話

 こちらは7階、向かいのビルの気になる窓は6階にある。実は元々そのビルの6階を意識する理由があった。事務所で取り扱うサービス商品の代理店統括部門がそこにあり、取り扱い成績は惨憺たるものだが私の事務所はその代理店の一つということになっている。
 こちらとしてはこれがメインの業務でもなく力の入れ方が足らないのかも知れないが、新規契約書を“忘れた頃に持って行く”劣等代理店には違いない。事務所がここに移転した時に住所が近いことは分かっていたが、向かいのビルだとは思わなかった。ただこの近さを利用して、数少ない新規契約書がとれた場合には先方の『A××コミュニケーションズ』代理店担当者に直接手渡すことにしている。記録より記憶に残る代理店作戦ということで・・・
 『A××コミュニケーションズ』は向かいのビルの6階フロアすべてを使用している。代理店部門以外も含め30〜40名位はそこに勤務しているはずだ。喫煙コーナーの窓から見える側にどんな部署が配置されているのかは分からない。契約書を持参する際も、決まってロビーの接客用コーナーに立ち入るだけである。
 日中は、ほぼブラインド全開の窓の向こうでスタッフが忙しく動き回る様子がよく見える。また夜は、閉じられたブラインドの隙間から遅くまでオフィスの照明が漏れている。しかし、これだけでは向かいのビルの他の階にしても似たような状況である。私のいるビルも、外から見れば同じような様だろう。
 その6階で目に留まったのは、夜でもブラインドの下りない一つの窓。そして何よりも印象に残ったのが、その窓際で夜遅くまで残業をこなす女性スタッフらしきシルエットだった。
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posted by イプシロン at 17:53 | 不連続素人小説 | 更新情報をチェックする

2007年04月11日

不連続素人小説【紫煙の窓】第03話

喫煙コーナーの先客は同じ7階に事務所を構える会社のS崎さん。その頃から既に嫌煙のプレッシャーは高まりつつあり、肩身の狭い愛煙家同士、初めは不自然でも次第に打ち解けてしまうこともある。改まって名刺交換までとはいかなかったが、移転初日から同じビル内に知り合いができた。

S崎さんは私より大分先輩・・・50歳代後半にみえた。大柄で、ゴルフ焼けだろうか浅黒い顔が健康そうな印象を与える。

「どうも・・・」
「あっ、どうも・・・」
「こんど703に引っ越してきた○○のMといいます」
「あっ・・・709の●●産業、S崎です。ここは営業所の一つですけど」
「そっ・・そうですか。本社は・・・」
「本社は大阪なんです」
「あっ・・・そうなんですかぁ・・・」
「・・・・・・・・」
「(話題を変えよう)・・・でもこのビルはまだ助かります。最近は煙草吸うのに建物の外まで出なくちゃいけないビルもあって・・・」
「はぁ〜そうなんですかぁ・・・」(S崎さんは今でも時折、最近の情勢に疎いような反応を見せる)

その後も二人は度々喫煙所で顔を合わせ、顔を合わせるたびに数十秒間の世間話をする間柄となった。ただ会うのは決まって夜だったが・・・
初対面の時から気付いたS崎さんの一番の特徴は“声”だった。低く篭もった声で、何か直接脳に響くような感じさえ受ける“声”だった。
S崎さんは煙草の煙を燻らせながら、他愛ない世間話をしているときもあまり表情を変えずいつも窓の外を眺めていた。表情こそ豊かとは言えないが、ただ冷たい印象はなく温厚な紳士といった感じだ。

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posted by イプシロン at 16:27 | 不連続素人小説 | 更新情報をチェックする

2007年03月24日

不連続素人小説【紫煙の窓】第02話

 このビルの2階から9階までは各フロアだいたい同じ造りになっている。1階は大通りに面したところが出入り口になっており大手金融機関が店舗を構えているが、2階から上のテナントの出入り口は脇道に面したところにある。2階から上、又は地下に行く場合にはすべてこの脇道の出入り口を使うことになる。
 最近の中小オフィスビルの入退出管理は多くの場合“機械任せ”になっている場合が多いが、ここは昔ながらの警備員さん常駐型受付になっている。

私:「おはようございますぅ〜」
警備員:「(敬礼しながら)おはようございます。Mさん今日は泊まりですか?」
私:「(決意に満ちた表情で)いや。今日はゼッタイに帰ります・・・」

なんて朝の受付での会話も、それほど大きくないオフィスビルならではのものかも知れない。
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posted by イプシロン at 02:40 | 不連続素人小説 | 更新情報をチェックする

2007年03月16日

不連続素人小説【紫煙の窓】第01話

 事務所が今のビルに移転してから3年と半年ほどが過ぎた。ここは東京都港区。オフィスビルが建ち並ぶビジネス街だ。
 真新しいビルもあれば改装に改装を重ねて現役を続けている“年代モノ”のビルもある。私が勤める事務所のビルは間違いなく後者・・・、外壁は近年リフォームされていてそれほど古びて見えないが中に入るとなかなか趣き(昭和の香り?レトロ感?)のある建築物である。
 地上9階、地下2階だが敷地はあまり広くない。立地は大通りに面した角地であり、ビジネスの拠点としては非常に恵まれている。窓からは交差点を行き交う沢山の人、クルマの波をこころゆくまで観察することもできる。勿論、JRや複数の地下鉄路線の駅にも近い。
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posted by イプシロン at 16:35 | 不連続素人小説 | 更新情報をチェックする