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2007年04月13日

不連続素人小説【紫煙の窓】第04話

 こちらは7階、向かいのビルの気になる窓は6階にある。実は元々そのビルの6階を意識する理由があった。事務所で取り扱うサービス商品の代理店統括部門がそこにあり、取り扱い成績は惨憺たるものだが私の事務所はその代理店の一つということになっている。
 こちらとしてはこれがメインの業務でもなく力の入れ方が足らないのかも知れないが、新規契約書を“忘れた頃に持って行く”劣等代理店には違いない。事務所がここに移転した時に住所が近いことは分かっていたが、向かいのビルだとは思わなかった。ただこの近さを利用して、数少ない新規契約書がとれた場合には先方の『A××コミュニケーションズ』代理店担当者に直接手渡すことにしている。記録より記憶に残る代理店作戦ということで・・・
 『A××コミュニケーションズ』は向かいのビルの6階フロアすべてを使用している。代理店部門以外も含め30〜40名位はそこに勤務しているはずだ。喫煙コーナーの窓から見える側にどんな部署が配置されているのかは分からない。契約書を持参する際も、決まってロビーの接客用コーナーに立ち入るだけである。
 日中は、ほぼブラインド全開の窓の向こうでスタッフが忙しく動き回る様子がよく見える。また夜は、閉じられたブラインドの隙間から遅くまでオフィスの照明が漏れている。しかし、これだけでは向かいのビルの他の階にしても似たような状況である。私のいるビルも、外から見れば同じような様だろう。
 その6階で目に留まったのは、夜でもブラインドの下りない一つの窓。そして何よりも印象に残ったのが、その窓際で夜遅くまで残業をこなす女性スタッフらしきシルエットだった。


 その窓のある部屋は、窓に近い場所に照明は無いらしい。部屋の奥の方からの少しオレンジがかった照明で、窓際の女性もほとんどシルエットしか分からない。ただこちらからは少し見下ろすかたちになるので、窓際の机に向かって椅子に掛けている様子、長い髪・・・そのくらいは見てとれた。
 機会こそ少ないが日中に喫煙コーナーからその窓を見ても、窓際の机とその奥の書類棚の一端が見えるだけで人の動く気配はない。その女性の姿(シルエット)を目撃するのは、私が深夜残業を終え、帰り際に喫煙コーナーに立ち寄る時に限られていた。帰り際の一服はいつも忙しなく、それ以前にはただ私がその女性の存在に気付かなかっただけかも知れない。
 たまたま目に留まったその時から、毎回その窓、そしてその女性を捜してしまうようになった。果たしてその女性は、どんな深夜であろうといつも同じ窓際で残業に励んでいた。それにしても仕事熱心なことではある。こっちは根気が続かず、仕事を適当に切り上げて「続きはまた明日!」となることが多いのに・・・

《※この物語はフィクションです》

イプシロン
posted by イプシロン at 17:53 | 不連続素人小説 | 更新情報をチェックする