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2007年04月11日

不連続素人小説【紫煙の窓】第03話

喫煙コーナーの先客は同じ7階に事務所を構える会社のS崎さん。その頃から既に嫌煙のプレッシャーは高まりつつあり、肩身の狭い愛煙家同士、初めは不自然でも次第に打ち解けてしまうこともある。改まって名刺交換までとはいかなかったが、移転初日から同じビル内に知り合いができた。

S崎さんは私より大分先輩・・・50歳代後半にみえた。大柄で、ゴルフ焼けだろうか浅黒い顔が健康そうな印象を与える。

「どうも・・・」
「あっ、どうも・・・」
「こんど703に引っ越してきた○○のMといいます」
「あっ・・・709の●●産業、S崎です。ここは営業所の一つですけど」
「そっ・・そうですか。本社は・・・」
「本社は大阪なんです」
「あっ・・・そうなんですかぁ・・・」
「・・・・・・・・」
「(話題を変えよう)・・・でもこのビルはまだ助かります。最近は煙草吸うのに建物の外まで出なくちゃいけないビルもあって・・・」
「はぁ〜そうなんですかぁ・・・」(S崎さんは今でも時折、最近の情勢に疎いような反応を見せる)

その後も二人は度々喫煙所で顔を合わせ、顔を合わせるたびに数十秒間の世間話をする間柄となった。ただ会うのは決まって夜だったが・・・
初対面の時から気付いたS崎さんの一番の特徴は“声”だった。低く篭もった声で、何か直接脳に響くような感じさえ受ける“声”だった。
S崎さんは煙草の煙を燻らせながら、他愛ない世間話をしているときもあまり表情を変えずいつも窓の外を眺めていた。表情こそ豊かとは言えないが、ただ冷たい印象はなく温厚な紳士といった感じだ。

私も何時しか、喫煙所に行くとS崎さんと同様に窓の外をぼんやりと眺める習慣がついていた。喫煙所のある廊下は脇道側に面しているので、正面を見ると道を挟んで建つオフィスビルの窓が目の前に並んでいる。細い一方通行の道路を挟んでいるだけなので、驚くほど向かいのビルの中がよく見える。当然、向こうからも大きな窓の並ぶこのビルの中は丸見えに近い状態だろう。ブラインドを下ろしていない窓なら、その部屋で働く人達の所作もひとつ一つ見てとれる。こちら側は廊下の窓でありブラインド自体付いていないから、外から尚更よく見えるだろう。時折向かいのビルの人と目が合ってしまうこともあり、その時は妙な気まずさを感じてしまう。

そんな風景としての向かいのビルの窓、窓、窓。 その中に、気になる一つの窓を見付けてしまったのが今から1年半ほど前だった。

《※この物語はフィクションです》

イプシロン
posted by イプシロン at 16:27 | 不連続素人小説 | 更新情報をチェックする